ニューヨーク経済新聞ではアメリカ・ニューヨークで活躍するビジネスパーソンに、アメリカでの経験や生き抜くための方法を「特集:アメリカで生き抜く術」として特集インタビューする。
今回はニューヨークで和牛を広めるべく牛の覆面をかぶり米国市場に立ち向かう、オンライン和牛ショップの「WAGYUMAN」でチーフ・エグゼクティブ・オフィサーとして活躍するダイ守屋さんにアメリカで和牛ビジネスを展開していくリアルな現状を聞いた。
はじめに「WAGYU」とは
—「WAGYU」とはなんですか?アメリカでは普通に買えますか?
「WAGYU(和牛)」とは、牛の品種に着目した区分で、日本で長い時間をかけて品種改良されてきた黒毛和種などの4品種と、それらの交雑種のみです。それ以外は「和牛」と表示することができません 。アメリカでは、米国内で生まれ育った米国産和牛と日本で育って輸入された日本産和牛どちらも「WAGYU」と呼ばれています。
「WAGYU」のみ書かれている場合は、米国産がほとんどですが、日本産のものもアメリカで買えます。「WAGYUMAN」で取り扱っているのは全て日本産になります。また和牛といっても部位がたくさんあり当店では他社が扱っていない様々な部位を取り扱っています。
—「WAGYUMAN」のサービス内容、ご自身のバックグラウンド、はじめたきっかけについてお知らせください。
「WAGYUMAN」は日本産の和牛と日本で加工されたトロなどの海産物を取り扱うオンライン専門ショップです。手頃な価格でレストランクオリティの和牛や寿司を米国人に自宅でも味わってほしいという想いから展開しました。
元は日系の商社で駐在員として、その後米系の会社で資源の国際貿易に携わりニューヨークで勤務していたのですが、もう少し自分の好きなことにフォーカスしてみようと考え、予てより興味のあった”食”の業界で何か出来ないか考え始めたのがきっかけです。最初は右も左も分からずクーラーボックスで肉を担いでレストランを回ったりもしてました。その中でレストラン関係者の方々などから多くを学ばせてもらい今に至ります。全く新しい世界にこの歳で挑戦するのだから、存分に楽しもうという想いから、子供の時は誰しもが持っていたけど大人になって知らぬ間に忘れてしまっている心の中のヒーローになろうと思い、自ら和牛を売るヒーローになろうと牛の覆面をかぶりだすようになりました。
ビジネスモデルについて
—ビジネスモデル(フロー)について教えてください。
和牛は日本から一頭買いで仕入れ、海産物も日本で仕入れて、米国のオペレーション工場に送り、そこで加工、オンラインから注文が入ったらオーバーナイト便(翌日着)で客先に届くように発送しています。アメリカ人はまだ手の込んだ料理をする家庭はそんなに多くないので寿司はシャリが既に握って、刺身は既に切り分けられた状態で解凍してすぐに食べられるようにパッケージ化しています。
—ビジネスのユニークなポイントを教えてください。
ユニークなポイントというより、こだわりになりますが、日本で一頭買いをする際、仕入れる産地は決めず○○牛などのブランドで仕入れない、ホームページにも日本の県産地やブランド名は記載しないというルールを設けています。
背景として、日本の畜産農家の方には高齢で牛を育てることに手一杯でブランディングは充分にできていない方もたくさんいらっしゃいます。日本の和牛ビジネスを公平に広めていきたい思いから、ブランドに関わらず品質のよい大事に育てられた牛をパートナーが買いアメリカに送ります。もちろんお客様へ届ける際は商品と一緒に誰がどこで育てた牛なのか品質証明書を添えて配送しています。
—どのようなお客様が多いですか?
99%がBtoCで非日本人の現地のお客様です。卸売はまだ殆どしていないため一般の方になります。地域特性としては、やはり日本食レストランがあり和牛の知名度があるニューヨーク・ロサンゼルス・シカゴ・サンフランシスコ・マイアミなどが多いです。都市部以外の日本文化に親しみのない方はまだ「WAGYU」という言葉自体認知されていない状況です。「A5 Japanese Miyazaki Wagyu」など知っている方はごく一部です。
—アメリカの方にとって「WAGYU」を食べるとはどういうイメージですか?
キャビアや大トロのような高級で珍しい食材で食べてみたいというようなイメージに近いと思います。「WAGYUMAN」ではトロも取り扱っているのですが、トロは英語で「Fatty Tuna(脂肪分の多いマグロ)」といい日本と同じくアメリカでも高級食材として認知されてきています。日本の高級食材専門オンラインショップとして展開を広げています。
今後の展望について
—今後ビジネスを展開するにあたり展望など教えてください。
「WAGYU」という言葉が徐々にアメリカでも浸透してきているもののまだまだこれからといった状況です。まだ和牛を食べたことがない人に少しでも多く食べてもらうため普及していきたいです。
現在植物性の代替肉のような製品も多く販売されてきていて、和牛の脂は身体に悪いと誤解されてしまうことがありますが、実は国産和牛の脂は脂の融点が低く、コレステロールや中性脂肪を防ぐ効果があります。トレーニングに最適な食材としてオリンピック選手にも注目されていて、こうした和牛の利点も後々アメリカでも広めていきたいと考えています。
あと一つ最後に、和牛を通して日本の影響力をアメリカにアピールして、米国和牛業界を日本人としてリードするよう挑戦を続けていきたいです。
—ありがとうございました。今後のご活躍をお祈りします。
About
【プロフィール】
1977年生まれ。京都府出身。
前職で2007年から米国・ニューヨークで駐在、米系会社に転職後、2019年11月にWAGYUMAN Inc.を立ち上げ。「WAGYUMAN」として日本産和牛の楽しさを遊びの職人としてニューヨークをはじめ、アメリカで伝えている。
【「WAGYUMAN」ウェブサイト】